PFI(アメリカ・ペットフード協会)

ペットの肥満〜クラウディア・カーク先生特別インタビュー

PFI獣医師教育セミナーのために来日したテネシー大学教授のクラウディア・カーク先生に「ペットの肥満」についてお話を伺いました。カーク先生は現在、同校の獣医学部小動物臨床学科長を務められ、数々の受賞歴をもつアメリカの獣医療界をリードする獣医師のひとりです。

<目次>
肥満によっておこりやすい病気や寿命に与える影響
肥満の基準・水準
肥満の効果的な予防策
肥満になってしまった場合の対策
肥満に対する注意点についてのメッセージ

(P:PFIインタビュアー K:クラウディア・カーク先生)

P:このたびはお忙しい中、来日いただきまして誠にありがとうございました。先生の今回の講演内容は糖尿病の内科治療と栄養療法でした。糖尿病の予防と治療において肥満管理が最も重要な要素のひとつであるとのことでした。日本でもここ数年、ペットは肥満化傾向にあります。肥満によって起こりやすい病気や寿命に与える影響などについてお聞かせください。

K:肥満によるリスクは色々ありますが、特に犬と猫で問題となるのはがんの増加、関節炎、関節障害、運動障害などが挙げられます。特に猫は糖尿病のリスクが高まります。
また最近では予想もしなかった他の病気にも肥満が絡んでいるという事がわかってきました。たとえば尿路感染症、腎臓病なども肥満の個体に多いですし、麻酔が必要な外科手術などでは、麻酔が個体へ与えるリスクは高まります。肥満の猫が病気になって食事が食べられなくなると、肝リピドーシス(特発性脂肪肝)という突然脂肪が肝臓に溜まる、命を脅かす大変危険な病気になってしまうこともあります。また、肝臓は内分泌系のホルモンなどを放出する非常に重要な器官ですから、肝臓が脂肪蓄積し傷害されると、炎症サイトカインなどの物質が放出されてしまい、全身の炎症につながるということもわかっています。このようにペットの肥満には今までわかっていなかったような様々なリスクがあるといえます。
たとえ病気にはならなくても、肥満は全般的にペットのQOL(生活の質)自体を落としてしまうことがあります。たとえば怠惰であまり動かないとか、気分がよくなさそうといったことです。我々の病院で肥満の治療に成功したペットオーナーはもとの子犬や子猫の状態に戻ったと言って驚き、肥満がどれだけペットの生活の質を低下させていたか気づきます。

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P:具体的に私たちが肥満の基準や指標にすると良いものはありますか?

K:あまりにも太っている個体はすぐわかると思いますが、見た目ではわからずに飼い主は気がつかないこともあります。このような場合の判断は非常に難しいですが、我々が提唱しているのはボディー・コンディショニング・スコア(BCS)です。BCSによると、肥満の境界は肋骨がちゃんと触れるか、あばら骨が触れるかという事です。あばら骨が表に出て目立つというのは問題ですけれども、ちょっと触っただけであばら骨がわかるという事が理想的な体重です。肥満であばら骨がわからない事がありますが、なかなか見つからないというのはかなり肥満になっているという事です。
理想体重は飼い主から見るとやせすぎというくらいだと思います。飼い主は、丸みを帯びたコロコロしたペットがかわいいと思う傾向があるので、どうしても太り気味にさせてしまうのではないかと思います。

P:肥満の効果的な予防策や飼い主が気をつける点はどのようなことでしょう。

K:まず定期的に獣医師を訪ね、検診して体重の変化をみていくことが大切です。5歳までは年に1回、それ以降は年に2回くらい行ったほうがよいと思います。そしてバランスのとれた良い食事を与えることが大切です。動物の運動量、ライフステージに合った食事を与えることです。低脂肪で高繊維のもの、それから動物の年齢や生殖状態に適したものを選ぶことが大事です。

運動も定期的に、できれば毎日することです。室内飼いの動物の場合でも、おもちゃで遊ぶなど運動していれば筋肉量が維持でき、脂肪を燃焼させることができると思います。
注意すべき点は去勢したペットの健康です。去勢は健康を守る効果もあるのですが肥満になりやすいというリスクがあります。去勢している場合には食事を減らし、おやつや人の食べ物をテーブルから与えないなどの注意が必要です。

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P:肥満になってしまった場合、食事や運動はどのようにすればよいですか?食事を減らすと動物もストレスになってしまうのでは…と心配する飼い主も多いと思います。ストレスなくダイエットに成功する良いアイデアやコツがあれば教えて下さい。

K:肥満対策は複雑で、難しいのは飼い主の教育です。実はダイエットのストレスが大きいのは食事を減らされるペットよりもペットに以前と同じよう食事を与えることができない飼い主自信なのです。飼い主がペットに食べ物を与えすぎないようにするのはなかなか難しいのです。我々はカロリー計算法に基づいて減量計画を提案しています。
このような減量計画を実践するとペッとはあまりお腹がすきすぎることなく、食事の量をうまくコントロールできるようになります。少量の食事を数回に分けて与えることも効果があります。食事の間隔が開くとペットはお腹がすきすぎておねだりしますが、頻繁に少量で与えることで解消されます。

定期的な運動も大切です。あまりにも太りすぎた個体だと過剰な運動は危険ですが、獣医師の監督のもとに安全な運動を行う方法もあります。テネシー大学では獣医師による運動プログラムがあり、そのための施設もあります。たとえばプールの中にはトレッドミル(ランニングマシン)があって、肥満でも関節が痛まないで運動ができます。そして、飼い主が食べ物を与えること以外で愛情を示すことも大切です。おもちゃを持って遊んであげるとか、グルーミングで世話をしてあげるとかそういう愛情の示し方があると思います。

ダイエットして効果が出ないと、飼い主がやる気を失ってしまうという問題がありますが、2週間に1回,月1回など定期的に獣医師を訪れることでやる気も続くでしょう。また通っている病院の獣医師がペットに必要なカロリー計算をする知識を持っていることも大事です。ペットフードメーカーは獣医師向けにペットフードから簡単にカロリー計算ができるようないろいろな資料を作っています。それをもとに獣医師が計算して処方するのが一般的です。獣医師側のカロリー計算に対する理解がとても必要だと思います。

今まで与えていたレギュラーフードの量を単に減らして減量をすると、むしろ必要なビタミンが十分取れないというような問題も出てきます。レギュラーフードの量を減らすよりは、処方食などで栄養が十分にあるものを与えることが大切です。ペット用の処方食などはペットが満腹感を得られるような繊維がたくさん入っていたり、脂肪を燃焼させるようなカルニチンなどの成分が入っています。

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P:最後に肥満に対する注意点についてメッセージをいただけますか?

K:ある調査、研究では肥満はペットの寿命を縮めるという結果が出ています。特に猫の調査だったのですが、肥満の猫は早死にするリスクが3倍にも上がる…つまり8歳から12歳までに死んでしまうということです。本当にオーナーがペットをかわいいと思うのであれば、肥満を防止してあげるのが大事ではないでしょうか?そうすればもっと長い年月かわいがることができます。
ペット自身は肥満だと体調がすぐれず、気分も良くないのです。本当にペットを愛するのであれば、ペットがいい気分で元気な気持ちでいられるようにしてあげること、つまり肥満を防止してあげることが真の愛だと思います。

アメリカのことわざに「親切すぎて相手を殺す」という言い方があります。ペットをあまりにも甘やかして寿命を縮めないように、愛情を持ってペットの健康管理に気をつけてあげてください。

P:ありがとうございました。

クローディア・A・カーク

獣医学博士(DVM, Ph.D.)
テネシー大学獣医学部小動物臨床学科長 教授
アメリカ獣医内科専門医会(ACVIM)認定専門医
アメリカ獣医栄養学専門医会(ACVN)認定専門医
カンザス州立大学非常勤講師
マーク・モーリス研究所教授

 

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